「CX(顧客体験)」という言葉をご存知ですか?近年、SNSやスマホの普及や、消費者の嗜好が多様化したことにより、マーケティング分野で改めて注目を集めているワードです。今回は、CXが注目される背景や「UX」との違い。CXを高めるために取り組むべき3つのこと。全国CXランキング上位企業の成功事例や、未来のCXまで幅広くご紹介します。
CXとは
マーケティング用語である「CX(カスタマーエクスペリエンス)」とは、顧客体験という意味の言葉です。一般的に、商品やサービスを提供する場合、そのものが生み出す価値、「価格」「機能」などにフォーカスしがちです。しかし「CX」は、そのものの利用に至るまでのプロセスや、利用後のケアなど包括的な体験を指します。
例えば、インターネットで家電を購入する際の、購入ページの分かりやすさや動線、配達スピード、購入後のサポートまでの一連の体験で顧客が感じる「満足感」などの感情も含まれるのです。
UXとの違い
CXと似た言葉に「UX」があります。しばしば混同されるこのワードは「ユーザーエクスペリエンス」の略で、商品やサービスを利用した段階の顧客体験を指します。つまり、UXはCXの一部分であると言えるでしょう。
CXが話題となった背景
実は、CXという言葉が一般化したのは2000年代初頭だと言われています。しかし、企業のマーケティングにおいて重要視されるようになったのは、インターネット環境が整備され、スマートフォンやSNSが普及して以降。
それまで、商品を購入する際はCMやホームページ等の一方的なメッセージを参考にしていました。しかし現在は、顧客自身がさまざまな情報にアクセスし、競合商品と比較できるようになっています。顧客の嗜好が多様化していることもあり、商品価値や価格優位性を保つだけでは、顧客を獲得することが出来なくなっているのです。
また、購入する前に既に使っている人の「体験」をSNSで調べることも当たり前に。顧客が満足する体験を提供することによって、その顧客が体験を拡散し、次の顧客獲得に繋がるのです。
CXを高めるためにやるべきこと
それでは、CXを高めるために何をすれば良いのでしょうか。
カスタマージャーニーマップ・ペルソナ設定などでゴールを明確に
まずは、ゴールの明確化です。顧客との接点などを整理するために「カスタマージャーニーマップ」という手法があります。その名の通り「顧客の旅」を可視化したもので、商品やサービスを認知し、興味を持ち、検討し、購入し、その後の体験までの一連の流れをさまざまな視点から分析・検討します。
また、ペルソナ、つまりその商品やサービスを利用するターゲットも細かく設定します。年齢、性別、職業、趣味、給与、休日の過ごし方など、細具体的な情報を抽出し、イメージをブラッシュアップします。
一例として、以下のようなマップが挙げられます。これは、新色のリップを購入する際の顧客の行動や気持ちを可視化したものです。
CRMプラットフォーム「HubSpot」など、無料でカスタマージャーニーマップのテンプレートを配布しているWebサイトもあります。
【参考】カスタマージャーニーマップテンプレート/HubSpot
現状を把握する
CXに限ったことではありませんが、現状把握が重要です。カスタマージャーニーマップで設定した接点一つひとつにおける、SNSでのクチコミ、カスタマーサポートに寄せられる声、店頭での反応などを収集し、細かく分析します。そこで、課題を抽出し、その解決に向けて対策を練ります。
PDCAを回す
現状把握(課題の抽出)まで完了したら、PDCAを回すのみ。設定したペルソナの視点に立ち、それぞれの接点において望ましい顧客体験を生み出すための施策を実行します。うまくいかなければ、再び情報やデータを収集し、改善する。それを繰り返すことで、より満足度の高い「顧客体験」となるはずです。
CXの企業成功事例
それでは、既にCX向上に成功している企業の事例を簡単にご紹介します。
スターバックスコーヒー
スターバックスがCXを考える時に重視しているのは「お客様にとって、なくてはならないブランドになること」。そのために、「感情」にアクセスする事を大切にしているそうです。店舗におけるバリスタの接客での心遣いや声かけ、季節性のあるドリンクやフード、Webを使ったキャンペーンなど、その取り組みは多岐に亘ります。お客様からの「いつも混んでいて、待ち時間が長い」という課題に対しては、モバイルでのオーダーと支払いができるシステムを構築しています。
全国にこれだけ多くの店舗数のあるスターバックスで、どの店舗でも満足のいく顧客体験が得られるのは、全ての店舗でミッションとバリューを共有しており、それに基づいて行動しているから。上質なCXを生み出すには、企業理念や目指す方向性からの見直しも必要なのかも知れません。
【参考】スターバックス コーヒー ジャパンCMOに聞く、心を動かす体験の作り方/CX Clip
丸亀製麺
丸亀製麺は、インターブランドジャパン「顧客体験価値(CX)ランキング2022」で1位を獲得しています。「うどん店」は無数にありますが、その中で「選ばれる」ために、丸亀製麺は「人間の脳」への働きかけをしているそう。具体的には、思考を司る左脳に「食べたくなる理由」「独自性」などを、感情を司る右脳には「美味しそう」「食べたい」「ワクワク感」などの衝動を起こすためのアプローチをしているそうです。これらの施策によって、人間に行動変容を起こし客を呼び込む戦略。全国1位を獲得するCXは、ここまでやるのか…と感じました。
【参考】丸亀製麺の顧客体験(CX)が評価されるワケ、“星野リゾート超え”を生んだデータ戦略/ビジネス+IT
ANA
実は、航空大手ANAもインターブランドジャパン「顧客体験価値(CX)ランキング2022」において3位を獲得しています。同社は「お客様満足と価値創造で世界のリーディングエアライングループを目指します。」というビジョンを掲げ、空港・機内だけではない、利用前後のさまざまな接点も含めて顧客体験とし、それら全体の価値を高めることで、結果「ANAで良かった」と感じてもらうための取り組みを進めているそう。まさに「CX(顧客体験)」の考え方そのものであると言えます。さらに、そのカスタマージャーニーは28個のシーンに分解され、独自のデータ収集や評価方法により、それぞれの質の改善を目指しているそうです。
【おわりに】これからのCX
いかがでしたか?今回の記事を書くにあたり「未来のCX」についても調べてみました。すると、今後は「拡張現実」を活用したCXが一般化するという見解が多く見られました。仮想空間などの世界における、リアルな体験です。例えば「Eコマース」ならぬ「VRコマース」というサービスがあります。スマホやタブレットなどで簡単に仮想空間内のショップに出向くことができ、ストア内を自由に歩き回り、実際に店舗を訪れているような購買体験が可能に。「ワクワク感」なども醸成されるそうです。これが「当たり前」になれば、筆者が住んでいる四国のような地方都市でも、都会にあるようなお店で買い物ができたり、時には海外でもショッピングが楽しめるのでは…と、今から「ワクワク」しています!
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。