2023年10月1日導入の「インボイス制度」。このインボイスとは「適格請求書」を指す言葉です。取引における消費税額を正しく把握することを目的に導入されるこの制度は、多くの事業者に影響を及ぼします。しかし、実はあまり理解していない…という方が多いのも事実。そこで今回は、インボイス制度の概要とその影響、導入されるメリット・デメリット、さらには立場別の「制度に対応するためにすべきこと」、そして適格請求書の発行ソフト5選まで詳しくご紹介します。
インボイス制度の概要
昨今、大きな話題となっている「インボイス制度」の概要について解説します。(2023年9月末時点の情報です)
インボイス制度とは
そもそも「インボイス制度」とは、2023年10月1日から新たにスタートする消費税の仕入税額控除の方式です。「インボイス」とは「適格請求書」を指す言葉です。
インボイス制度の導入目的は、取引における消費税額を正しく把握すること、とされています。令和元年より「軽減税率」が導入され、消費税は一律10%ではなくなりました。これによる、計算ミスや不正などを防止するために商品やサービス毎に価格と税率を明記した請求書(適格請求書)が必要になったのです。
インボイス制度が導入される影響
インボイス制度で最も影響を受けるのは、取引相手が「一般消費者」ではなく「事業者」である多くの中小企業や個人事業主です。
この制度は、買い手(発注側)が売り手(受注側)の適格請求書(インボイス)を受け取ると、仕入税額控除が受けられるというものです。仕入税額控除とは、売上にかかる消費税から仕入にかかる消費税を控除して計算するもので、消費税の二重課税を解消するために行われます。当然、買い手(発注側)は仕入税額控除を受けなければ納税額が増えるため、適格請求書の発行を望みます。
ただし、この「適格請求書」を発行できるのが「課税事業者」のみとなります。
【出典】令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です/政府広報オンライン
そのため、買い手は「課税事業者」との取引を望み、「免税事業者」との取引を見直す可能性が出てきます。このインボイス制度に対応するためには、免税事業者も「課税事業者」となる必要(要登録)があります。
これまで免税事業者だった企業・個人事業主が「課税事業者」になると、これまで納めていなかった消費税の申告・納付の義務が発生します。そのため、税負担が大きく増えることになります。主に中小企業と個人事業主に大きな影響を与える、インボイス制度。その中止を求める署名は、日本のオンライン署名史上過去最多となり、54万筆を超えています(2023年9月28日現在)。
インボイス制度がスタートするメリット・デメリット
ここで、インボイス制度がスタートするメリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット
◎消費税の計算が正確になる
◎「電子インボイス」の場合は業務効率化に繋がる
電子化した適格請求書「電子インボイス」を導入することにより、人為的ミスや不正を防ぎ、正しい経理業務が遂行できます。結果、業務効率化にも繋がります。国も、電子インボイスの普及によりバックオフィス業務の生産性向上を目指しています。
デメリット
◎納税負担が増える事業者が多く、廃業を検討する人も
◎経理の事務負担が増える
特に小規模事業主の税務負担が増えるため、例えば「声優の4人に1人は廃業を検討している」とする報道もあります。このインボイス制度は売り手側の負担がフィーチャーされることが多くありますが、実は買い手側の事務作業の負担も増大します。適格請求書を受け取った場合、その全ての登録番号をチェックし、さらに認証登録されているかまで確認する必要があります。これを、請求書が届くたびに繰り返すのです。
インボイス制度に対応するためにすべきこと
インボイス制度に対応するためには、それぞれの立場ですべきことがあります。
まず、自身が「課税事業者」か「免税事業者」かを、把握する必要があります。それぞれ、基本的に以下のように分類されています。
◎課税事業者…基準期間に課税売上高が1,000万円を超える事業者。消費税の納税義務あり。
◎免税事業者…基準期間に課税売上高が1,000万円以下の事業者。消費税の申告・納付が免除。
その上で、自身が「売り手(請求書を発行する)」もしくは「買い手(請求書を受け取る)」であるかによってもインボイス対応への動きが変わります。
課税事業者
まず、自身が課税事業者の場合、売り手・買い手の立場別に以下の対応が必要となります。
◎売り手…適格請求書発行事業者の登録/適格請求書の発行/控えの保存など
◎買い手…適格請求書のチェック/適格請求書の保存など
免税事業者
次に、自身が免税事業者の場合、売り手・買い手の立場別に以下の対応が必要となります。
◎売り手…適格請求書発行事業者の登録/適格請求書の発行/控えの保存など
◎買い手…特に無し
免税事業者がインボイス制度に対応するため課税事業者になる場合、「適格請求書発行事業者登録申請書」を所轄の税務署に提出し登録する必要があります。詳しくは、国税庁の申請ページをご確認ください。
【申請手続きはこちら】
適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)申請手続/国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_shinei.htm
【出典】令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です/政府広報オンライン
請求書は「適格請求書」へ
大きく変わるのは、請求書の様式です。これまでの請求書は、取引年月日、取引内容、事業者の名称などが記載されていましたが、それに以下の①④⑤が追加された形が「適格請求書(インボイス)」となります。
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤税率ごとに区分した消費税額等
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
以下が、政府広報オンラインで公開されている適格請求書(インボイス)の事例です。
【出典】令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者間でやり取りされる「消費税」が記載された請求書等の制度です/政府広報オンライン
インボイス制度対応の請求書発行ソフト5選
インボイス制度で大きく変わるのは「請求書」の様式です。ここでは、売り手として「適格請求書」を発行する際に役立つ請求書発行システム5選をご紹介します。(2023年9月末時点の情報です)
インボイス王
適格請求書の作成から管理までを、Web上で簡単に完結できるシステムです。また、毎月10枚までは無料で利用できるため、初心者や小規模事業主にも嬉しいサービスです。取引先や品目を事前に登録しておけば、翌月もコピーですぐに請求書を作成できるほか、取引先ごとに請求書を一覧化でき管理もスムーズです。
【提供企業】ソリマチ株式会社
【URL】https://www.sorimachi.co.jp/lp-invoice-oh/
MoneyFowardクラウドインボイス(送付プラン)
適格請求書を簡単に発行・保存できることはもちろん、取引先とのコミュニケーション(請求書の訂正やお知らせ)を、クラウド上で行うことができます。また、レイアウトも柔軟に設定できるため、既存のフォーマットがある場合でも、大きな変更が必要ありません。
【提供企業】株式会社マネーフォワード
【URL】https://biz.moneyforward.com/cloud-invoice/send/#plan-tab
楽楽明細
6,000社以上の企業で導入されているシステムです。適格請求書の発行・保存だけでなく、既存の請求データをアップロードすれば、自動で発行できます。「ダウンロード」「メール」「郵送」「FAX」などの発行方法に対応しており、取引先の要望によって使い分けることができます。
【提供企業】株式会社ラクス
【URL】https://www.rakurakumeisai.jp/lp/003invoice.html
freee請求書
freee請求書では、「金額」「項目」を入力するだけで、インボイスの計算方法を使って自動計算が可能。「適格請求書」を正しく発行することができます。また、インボイス制度では請求書の控えの保存も義務付けられていますが、請求書作成時に保存も完了します。何枚作成しても、無料で利用できます。
【提供企業】freee株式会社
【URL】https://www.freee.co.jp/invoice/
Misoca
弥生のクラウド請求書ソフト「Misoca」は、適格請求書の発行および発行した請求書の控えの保存に対応しています。また、見積書・納品書・請求書も、クリック操作で簡単に作成できます。スマホやタブレットから操作できる点も、メリットの一つです。月々、請求書10枚まで無料で利用できます。
【提供企業】弥生株式会社
【URL】https://www.yayoi-kk.co.jp/seikyusho/
【おわりに】
いかがでしたか?実際に個人事業主である私も、全ての取引先からインボイス制度への対応と登録の有無を確認する文書をいただきました。中には「10月1日以降、免税事業者には20%の値引きを相談します」と明記されているものもありました。また、「基本的に、今後は適格請求書発行事業者に登録している方とお仕事するという方針になりました」とご連絡いただくこともありました。個人的には「適格請求書発行事業者」に登録するという以外の選択肢はありませんでした。賛否両論が巻き起こっている「インボイス制度」ですが、大きな反対運動も巻き起こっている中、今後の動向が注目されます。
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。