テレワークで広がった地方移住の可能性 「居住地を選ばない」企業の新たな働き方も

テレワーク,働き方

コロナ禍も3年目に突入し「テレワーク」という働き方が定着しつつあります。出勤していた頃のように「場所」に縛られることがなくなり、働く人の価値観が徐々に「地方移住」に向き始めています。実際に、ある調査では「地方や郊外への移住に興味がある」と回答した人が約5割という結果も出ています。

今回は、テレワークが当たり前になったことによる、働く人の「地方」への意識の変化。そして、実際に地方移住した場合のメリットとデメリット。さらには、働く場所を選ばなくなった時代に合わせた、各企業の新しい「働き方」の事例まで詳しくご紹介します。

働く人の地方移住への考え方

この章では、テレワークがどの程度社会に定着してきているかということと、その環境の中で「地方移住」を検討する人がどの程度増えてきているのか、という点についてご紹介します。

テレワークの現状

コロナ禍も3年目となり、一つの働き方として「テレワーク」が定着しつつあります。

株式会社パーソル総合研究所の調査結果(2022年3月発表)を見てみると、新型コロナウイルス感染症第6波においては、正社員のうち28.5%の人がテレワークを実施していると回答しています。同調査はコロナ禍がスタートしてすぐの2020年3月に初回調査が実施されましたが、当時は13.2%でした。しかし、その後の定期的な5回の調査では、いずれも25%前後と、倍以上の数値で推移しています。

テレワークの環境が整ったことにより、その体制が一時的なものではなくなってきていることが読み取れます。

【引用】新型コロナウイルス感染症の第6波感染拡大下におけるテレワークの実態/株式会社パーソル総合研究所
https://rc.persol-group.co.jp/news/202203011000.html

地方移住に興味を示す人が増加

テレワークが定着しつつあるなかで、都心に住むのではなく「地方移住」に興味を持つが増えています。実際に、2021年9月に発表された株式会社リクルートの調査結果を見てみましょう。

東京都内在住の会社員2,479名に対し「地方や郊外への移住に興味があるか」と質問したところ、

◎とても興味がある…11.5%
◎興味がある…35.1%

と、計46.6%の人が地方移住への興味を示していることが分かりました。そのきっかけとして、

◎テレワークなどの柔軟な働き方が可能になったため
◎在宅時間が増え、よりよい住環境で生活したい

など、生活の変化が理由に挙げられています。テレワークの導入で、都心に暮らす必要性が薄くなったことや、暮らし方そのものを考え直す傾向にあることが分かります。

【引用】地方移住および多拠点居住の考え方についてのアンケート/株式会社リクルート
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2021/0916_9555.html

新卒採用も地方・地元志向へ

地方や地元への興味を示しているのは、現役会社員だけではありません。2023年3月卒の大学生を対象としたマイナビの調査を見てみると、地元(Uターン含む)就職を希望する学生が62.6%と、5年ぶりに60%を超えました。コロナ禍以前は、完全な売り手市場だったこともあり、首都圏にある大企業への就職志向が高かったものの、コロナ禍でオンラインの就職活動が一般化したことで、出向くことなく企業の情報を得られたり、世の中の動きが不透明だったりすることなどから、地元志向が高まったと考えられています。

また「働く場所が自由になった際に、勤務先・居住地域の理想として当てはまるもの」として約3割の学生が「地方の企業に勤め、地方に住みたい」と回答しています。

【引用】2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査/株式会社マイナビ
https://www.mynavi.jp/news/2022/05/post_33994.html

東京都は初の転出超過に

働く人たちが地方移住に興味を持ってはいるものの、実際に人は動いているのでしょうか。総務省が発表した2021年の「住民基本台帳」の人口移動報告を見てみると、東京23区では、転入した人よりも転出した人が1万4,828名多い「転出超過」となりました。また、日本人に限って見てみると、23区が転出超過になったのは1996年以来25年ぶりのことです。テレワークの普及により、働く場所を選ばなくなったことで、東京都中心部からの転出が加速していると考えられています。

【引用】住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)結果/総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/idou/2021np/jissu/youyaku/index.html

地方移住のメリット・デメリット

それでは、実際に地方に移住する場合、どんなメリット・デメリットがあるのか見てみましょう。

地方移住のメリット

地方移住によって、以下のようなメリットが考えられます。

◎満員電車での通勤、休日の混雑や渋滞などから解放される
◎自然環境などの豊かな場所で生活できる
◎子育てしやすい環境(待機児童問題が少ない、子育て支援が手厚いなど)である場合が多い
◎都心に比べ物価が安く、新鮮で良い食材が手に入りやすい
◎都心に比べ家賃が安く、広く快適な住環境が手に入る

実際に筆者は、人口50万人ほどの地方都市に住んでいます。移動手段は基本的に車で、満員電車で通勤した経験はありません。また、子どもが保育園に入園する際も、希望する園を選ぶことができました。中学校卒業までは医療費が無料など、手厚い子育て支援制度があります。

休日には、少し車を走らせれば、山も海もあり、空気の美味しい場所で子どもたちを遊ばせることができます。町もコンパクトでちょっと走れば役所、病院、何でも揃っており、不自由をしたことはありません。都会から転勤で引っ越してきて、そのまま移住してしまった…という人も多く、まさに「暮らしやすさ」を感じています。

地方移住のデメリット

逆に、地方移住のデメリットとして挙げられるのは、以下のような点です。

◎公共の交通機関が発達しておらず、移動が不便なエリアもある
◎地方企業へ転職した場合、給与が下がることも少なくない
◎子どもの教育に関して選択肢が少ない
◎娯楽施設が少なく、最新の芸術などに触れる機会も少ない
◎地域のコミュニティが面倒なケースも

「仕事面での不安」の声は大きいものがあります。実際に、先出の総務省の調査では、東京都からの転出に関して近隣3県(神奈川県・埼玉県・千葉県)への移動が大半を占めているという結果が出ています。これは、一部で「テレワーク移住」とも呼ばれています。都心での仕事は維持しつつ、居住地だけを移す、という考え方の人がまだまだ多いのかも知れません。

【引用】住民基本台帳人口移動報告 2021年(令和3年)結果/総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/idou/2021np/jissu/youyaku/index.html

【企業事例】社員が居住地を問わず働ける取り組み

これらの働く人の意識変化もあり、各企業も、社員の居住地を問わない新たな制度の導入を進めています。

三菱地所プロパティマネジメント/転居を伴わない転勤制度

最初に、三菱地所の子会社であり、オフィスビルなどの運営管理を行う三菱プロパティマネジメントの事例です。この転居を伴わない転勤制度は、例えば転勤辞令を受けた社員を対象に、「選択肢の一つ」として、転居せずに遠隔地の業務を行うことを可能にするというもので、2021年4月から制度化。「あたらしい転勤」と呼ばれています。

現在は、配偶者の転勤で離職を検討していた女性社員が、この制度を活用し、東北支社に出社しながら丸の内の業務を行なっているということです。これにより、貴重な人材の流出を防ぐだけでなく、社員自身がキャリアを諦めなくても良い、幸せに働き続けられる環境の実現にもつながっています。

【参考】転居先でも“丸の内”勤務。三菱地所子会社が制度化した、“あたらしい転勤”とは?/bizble
https://bizble.asahi.com/articles/2021061600053.html

NTTグループ/転勤・単身赴任廃止

2021年9月、NTTグループはコロナ禍が明けた後の働き方として、原則、オフィス勤務ではなく在宅やサテライトオフィスでのリモートワークに切り替える方針を発表しました。サテライトオフィスの数を、現在の4倍である約260箇所以上に増やすととともに、「転勤」「単身赴任」も廃止する意向で、4〜5年で実現する構想です。

これにより、国内の従業員18万人のうち半数程度を基本的にリモートワークに移行し、「昭和のスタイルを変える」ことを目指しています。

【参考】NTTグループ「転勤」「単身赴任」廃止の方向で検討 働き方改革/NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210929/k10013281671000.html【参考】「転勤廃止」進めるNTT社長、自らも10回経験 脱・昭和の裏側は/朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASPBD5RH1PBDULFA00Z.html

ANA/ワークプレイス選択制度

航空大手ANAでは、新型コロナウイルスに伴う業績悪化により、人材流出が続いています。そこに歯止めをかけようと2022年中に「ワークプレイス選択制度」という、グループ内での転籍によって地方移住を認める制度を導入することになりました。パイロットを除く、正社員約38,000名が対象です。

転籍先は、グループ企業約40社。これまでも「出向」などの制度はありましたが、今後は社員本人の希望を考慮して転籍を可能とする制度に移行予定です。給与も、その企業の基準で設定されます。

【参考】ANA正社員、転籍で地方移住OK 22年度に新制度導入へ/朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASQ1F6W10Q1FULFA01W.html

働く人のニーズを汲み取った「働き方」のバージョンアップが必要

いかがでしたか?テレワークによって、どこにいても働くことができる時代。職種にもよりますが、自社の仕事は本当に「その拠点にいなければできない仕事」なのかどうかを、一度フラットに検討してみると、新たな可能性が見えてくるかも知れません。

ご紹介した三菱地所プロパティマネジメント社では「あたらしい転勤」を導入する前、「現地マスト」業務がどの程度あるのかということを調査しました。その上で、その割合を減らすべく会議や資料をオンライン化するなどの実証実験を実施。すると、遠隔可能な業務が85%となり、その結果を踏まえて新たな制度の導入を決めています。

社員は、今後どんな働き方をしたいのか。それを知ることによって、社員が幸せに働くことができるだけでなく、優秀な人材とのエンゲージメントの強化にも繋がるでしょう。

この記事を書いたひと

三神早耶(みかみさや)

大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。