コロナ禍で、「テレワーク」が浸透しつつあります。しかし一方で、社員が孤独感を感じる、雑談などの気軽なコミュニケーションが取れず関係構築が難しい、社員の管理がしづらいなど…デメリットを訴える声も聞こえてきます。
テレワークを実施しながら、それらの課題を解決するための方法の一つとして、「メタバースオフィス」があります。これは「バーチャルオフィス」「仮想オフィス」などとも呼ばれ、オンライン上の空間に自社のオフィスを作り、そこにアバターなどの姿で出社したり、会話したりするもの。まだまだ導入企業は少ないものの、新たな働き方として注目を集めています。
今回は、このメタバースオフィスについて、メリット・デメリットや、実際のサービスの紹介、そして既に導入している企業の事例まで詳しくご紹介します。
テレワークで感じる課題
メタバースオフィスの話題に入る前に、まずテレワークの課題について見ていきたいと思います。
2022年2月、帝国データバンクが「企業がテレワークで感じたメリット・デメリットに関するアンケート」を発表しました。同アンケートによると、1,837社(有効回答企業数)のうち、テレワークを実施している企業は31.5%。そのうち「デメリットの方が多い」と回答した企業が半数以上という結果となりました。
◎メリットの方が多い…15.1%
◎デメリットの方が多い…16.4%
純粋に「テレワークを実施している企業」の内訳でいえば、52.1%がデメリットを強く感じていることになります。
【引用】テレワークの実態!導入企業の経営者・管理職の52%が不満/帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220204.pdf
テレワークで生まれた課題とは
それでは、具体的にどのような課題があるのでしょうか。テレワークにおける「主なデメリット」という質問に対しては、
◎社内コミュニケーションが減少する、意志疎通が困難…26.6%
◎できる業務が限られる…19.3%
◎進捗や成果が把握しにくい…14.6%
◎業務効率が落ちる、トラブル時の対応遅延…13.0%
◎取引先や顧客との意思疎通や親密な対応が困難…9.6%
などが挙げられています。この社内のコミュニケーション不足、管理ができないなどの項目は、他社の同様のアンケートを見ても「デメリット」として挙げられていました。
実際に、筆者の取引先である企業やメディアの方々に話を聞いてみると、やはりテレワークが続くことで快適な一面はあるものの、「同僚との雑談が無くなり、ストレスが溜まるようになった」「孤独を感じる」などのお話もありました。
とはいえ、テレワークが浸透している企業にとって、100%出社のスタイルに戻すということは難しいでしょう。この環境を続けながら、これらの課題を解決する手段について探っていきます。
【引用】テレワークの実態!導入企業の経営者・管理職の52%が不満/帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220204.pdf
メタバースオフィスとは
最近、よく聞かれるようになった言葉に「メタバース」があります。これは、「meta(超)」と「universe(宇宙)」が掛け合わされたもので、インターネット上に作られた、仮想空間またはそれを作り出すサービスのことを指します。
そして、このメタバースをオフィス機能に応用したものが「メタバースオフィス」です。メタバースオフィスでは、社員のアバターがデスクに着席したり、社内を移動したりと、本当にオフィスで働いているような動きが可能となります。また、会議を開催したり、特定の人に話しかけたりすることもできます。
もちろん、自分自身が今どのような状況なのか、そのステータスも設定することができるため、実際の姿は見えなくても周囲の人が状況を把握できます。
【メタバースオフィスの主な機能】
◎社員の勤務状況を把握できる
◎チャット・会議・会話機能
◎資料・画面共有
メタバースオフィスのメリット
それでは、メタバースオフィスを導入する際の、メリット・デメリットを見てみましょう。
メリットは、主に以下のような点が挙げられます。
◎社員が何をしているのかを把握できる
◎一緒に仕事している雰囲気を醸成し、孤独感の軽減につながる
同じオンラインでも、ZoomなどのWeb会議は決められた時間内で、業務に関することを話して終わるケースも多いでしょう。しかし、このメタバースオフィス上であれば、「ちょっと今時間いいですか?」と、気軽に会話することが可能となります。
メールやチャットで話すほどのことではない。もしくは、テキストにすると分かりづらくなってしまう…というような相談事もありますよね。そんな時、サクッと会話ができる。また、いま社員が在席しているのか、どのようなステータスなのかを上長が把握できるため、管理する側の安心感も生まれるでしょう。
先ほどのアンケートでも挙げられていた、テレワークのデメリット、
◎進捗や成果が把握しにくい
この辺りの解決にも、つながるのではないでしょうか。
メタバースオフィスのデメリット
それでは、デメリットについても見ていきましょう。
◎コストがかかる
◎新たな運用ルールが必要
例えば、常にメタバースオフィス上への出社を義務づけた場合、監視されているような息苦しさを感じる社員も出てくるでしょう。導入の際は、一律にトップダウンでルールを決めるのではなく、ある程度社員側の意見もヒアリングしておく必要があるでしょう。
また、サービスによっては大きなコストがかかります。月額費用や、場合によってはPCなどのスペックを上げる必要があるかも知れません。
導入することによって、何を実現したいのか、費用対効果を考えたとき、それは適正なのか、ということをしっかりと議論しておく必要があります。また、当然のことながら導入後の運用が大切です。これまでに無い、メタバースオフィス上でのルールも決めておく必要があります。
メタバースオフィスツール3選
それでは、実際にどのようなサービスがあるのか見ていきましょう。
oVice(オヴィス)
【ポイント】
◎2,034社以上が利用しているサービス
◎クリックするだけで相手のアバターに近づき、気軽に会話できる
◎slack、Zoomなど外部サービスとの連携も簡単
【料金】
◎ベーシック(最大50名)…5,500円/月
◎スタンダード(最大200名)…22,000円/月
◎オーガニゼーション(最大500名)…55,000円/月
※単発利用プランもあり
【詳細】
国内でも多くの導入事例があるバーチャル空間サービスが「oVice(オヴィス)」です。操作性が高い点が魅力で、同じ空間にいる複数のグループが、同時に会話することも可能です。200以上ある空間デザインプリセットから、自社専用のメタバース空間を作り上げることができます。
オフィスでは、同僚が今どのような状況かが、マークなどで一目でわかる仕組みになっています。また、社内だけでなく取引先との打ち合わせにも活用できます。社員の入退室管理などもできるため、マネジメント側にとっても安心なサービスです。
【URL】
https://ovice.in/ja/
RISA
【ポイント】
◎個人から法人まで、約5,000人のユーザーが活用
◎カラフルでユニークな多くのアバターから選択できる
◎ISMS認証を取得しており、安心・安全に利用できる
【料金】
◎スモールプラン(最大5名)…4,000円/月
◎ベーシックプラン(最大30名)…10,000円/月
◎ビジネスプラン最大(50名)…30,000円/月
※ユーザー無制限プランもあり
【詳細】
「RISA」は、初めて利用する人にも分かりやすいUIで、直感的な操作が可能です。また、表情豊かでキャラクター的なアバターが数多く用意されており、気軽なコミュニケーションの手助けをしてくれます。
2022年にはISMSを取得しており、セキュリティも万全。実際にRISAを導入している九電ビジネスソリューションズでは、「目の前に同僚がおらず、ホウレンソウのタイミングが分からない」などの課題を抱えていました。しかし、気軽な雑談ができるようになり、「みんなで働いている感覚」が生まれたことによって職場の安心感が醸成されています。
【URL】
https://www.risa.ne.jp
Sococo
【ポイント】
◎テレワークのコンサルティング企業が勧めるサービス
◎会議中に「ノック」をして入室も可能、リアルに近い運用
◎利用者アンケートで「操作が分かりやすい」が92%
【料金】
◎1ユーザー…2,500円/月
【詳細】
「Sococo」は、2013年よりテレワークマネジメント社が販売しているサービス。同社の利用者アンケート(2022)によると、「Sococoを利用することで、コミュニケーションが活性化する」と回答した人が85%にのぼりました。気軽に周囲の同僚に話しかけることができるのはもちろん、会議中、急ぎの連絡を伝えたいとき「ノック」をすることも可能です。
また、オフィスだけでなくイベントや社内研修での利用を想定したデザインなども揃っていたり、バーチャルで「自社ビル」を作ったりすることも可能。利用する人を飽きさせず、楽しめる工夫が散りばめられています。
【URL】
https://www.telework-management.co.jp/services/tool/sococo/
仮想オフィス導入事例
最後に、実際に仮想オフィスを導入している企業事例を見ていきましょう。
トランスコスモス株式会社/仮想オフィスで孤独感を軽減
デジタルマーケティングなどを手掛けるトランスコスモス社では、2020年の春頃からテレワークに切り替えました。ただ、Web上でのコミュニケーションは仕事の話に限られ、出社していた際に対面でできていた雑談が無くなってしまいました。それにより、特に新卒や中途など、採用されたばかりの人材は、周囲との関係性構築に課題がありました。
その課題を解決すべく、同社ではバーチャルオフィスツール「oVice」を導入。2021年4月より本格稼働し、2022年1月からは、社員は全員、oVice上のオフィスに出社するというルールになっています。
出社だけでなく、新入社員の懇親会、部門横断のランチ会、忘年会なども開催しています。今後は、入社を希望する人材が会社訪問できるなどの新たな活用方法も模索中です。
【参考】離れているけど、全員出社! バーチャルオフィスが日本の働き方を変える/TECH+
https://news.mynavi.jp/techplus/kikaku/20220318-2294190/
GMOペパボ株式会社/合宿をバーチャルオフィスで
レンタルサーバーやEC事業などを手掛けるGMOペパボでは、2020年1月から在宅勤務がスタートしました。「オフィスの代わりに集まれる場所」として、EC事業部のメンバーが東京オフィスを模し、ゲームエンジンなどを活用して作ったのが、非公式のバーチャルオフィスでした。このオフィスには、社内だけでなく社外の方も自由に入ることができます。
バーチャルオフィス上では、同社で毎年リアルで実施されていた「お産合宿」が開催されました。それまでは、1泊2日の合宿研修で、さまざまな職種の社員が集まり、一つの作品を作り上げていました。これを、2021年はバーチャルオフィスに変更。これまでのように、合宿に参加した人だけで閲覧可能だった作品が、社内の誰でも見られるようになったり、参加者の幅も広がりました。結果「これまでは敷居が高く参加しづらかったが、ハードルが低くなった」「いろんな人と会話ができて楽しかった」など、ポジティブな感想が寄せられています。
【参考】バーチャルお産合宿を開催しました/ペパボテックブログ
https://tech.pepabo.com/2021/03/12/virtual-osan/
株式会社POL/VRでメタバース出社デー
最後は、VR事業などを手掛ける、株式会社HIKKYの事例です。同社はVRイベントの企画・運営などを手掛ける企業。設立当初からフルリモート体制をとっており、VRChat上のバーチャルオフィスを持っています。そのオフィスで開催されるミーティングには、80名の社員それぞれがアバターで参加します。
中には仕事中でも本名ではなくバーチャルネームを使う人や、ZoomなどVR会議ではない場面でも、自身の姿ではなくアバターを投影する人もいるそう。これらの働き方が当たり前になっている同社では、「見た目や経歴に左右されないフラットなコミュニケーション」の実現を目指しています。
【参考】アバター出社は当たり前!「見た目」から解放された平等な世界を実現するHIKKYの働き方/SELECK
https://seleck.cc/1515
当たり前の働き方、が当たり前でなくなる日も近い!?
いかがでしたか?メタバースオフィスがあれば、同じ場所に居なくても相手の状況が分かり、気軽に雑談ができ、同じ空間を共有することができます。近年、UX(ユーザーエクスペリエンス/ユーザー体験)の重要性が叫ばれていますが、まさにこのメタバースオフィスは、自宅に居ながらオフィスに出社しているような「体験」をさせてくれます。
近年、フルリモートの企業も増え、どこに住んでいても仕事ができる時代になりました。出勤して、みんなが同じ場所で働く。これまでの当たり前の働き方が、当たり前でなくなる日も近いのかも知れません。
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。