コロナ禍で在宅勤務が当たり前になり、多くの企業でテレワークの環境が整備されました。それに伴って、現在就職・転職市場においても「リモートワークができるか」という点を重視して企業を選ぶ求職者が増えています。このように人々の価値観も変化するなかで、社員のワークライフバランスの向上のため、ひいては優秀な人材とのエンゲージメント確保のために新たな働き方を導入する企業が増えています。
今回は、新たな働き方として「フルリモート正社員」「スーパーフレックス制度」「副業の容認」の3つの働き方に加え、1日の中でスイッチをON/OFFするように細切れに働ける「スイッチワーク」や「週休3日」「週30時間労働」「専業禁止(必ず複業)」のルールを守るフルリモート企業など、ユニークな取り組みについても詳しくご紹介します。
フルリモート正社員
まずは、フルリモート正社員です。これは、その名の通り、オフィスに出社することなく正社員として勤務することで、コロナ禍で導入する企業が増えています。例えば、エンジニアのための転職求人サイトでは、2020年の3月時点でフルリモート可能な正社員の求人件数が約40件であったのに対し、翌年6月には450件と、11倍以上に増加しています。
技術職ばかりではありません。大手求人サイトindeedで「フルリモート」をキーワードに「正社員」の求人を検索したところ、全国で12,539件(11月19日時点)のヒットがありました。その職種も、映像制作、ライター、編集者などクリエイティヴ関連から、秘書、事務、営業まで職種を問わず幅広く募集されています。
今や「フルリモート正社員」は、珍しい雇用形態ではなくなってきていると言えます。
【引用】エンジニアのための転職求人サイト「Forkwell Jobs」、フルリモート可の正社員求人掲載数が1年で約11倍に増加/CodeZine
フルリモート正社員のメリット
まず、働く側のメリットとして、大きく以下のような点が挙げられます。
・家族の転勤などで退職する必要がない
・子どものお迎え、介護などに臨機応変に対応できる
・業務への集中力が高まる
・住む場所に関わらず正社員として働ける
特に「働く場所を選ばない」という点では、働く人とその家族にとっても大きな意味を持つでしょう。
上記のようなメリットを受け、会社側は全国各地から優秀な人材を獲得できること、優秀な人材を手放すリスクが減少することなど人手不足が叫ばれるなかで、大きなメリットを享受することができます。
フルリモート正社員のデメリット
デメリットについても見ていきましょう。それは、コミュニケーション不足です。特に採用時点からフルリモートである場合、経営者だけでなく、上司や一緒に働くメンバーとも直接顔を合わせることがありません。そうすると、経営理念や大切にしたい価値観など、目に見えない部分が伝わりにくいという懸念もあります。
フルリモート正社員の制度を導入する場合には、しっかりと理念を言語化、見える化し、何らかの形で経営者自らが発信し続けることで、社員に浸透させていく必要があるでしょう。
フルリモート正社員の事例紹介
人材サービスの株式会社キャスターでは、700名以上の従業員(正社員含む)がフルリモートワークで働いています。入社してから「一度も、どこにも出勤しないで仕事ができる」というスタイルを目指しています。同社では、フルリモートを進める上でのポイントとして
・ファシリティ
・生産管理、成果管理
の3つを重視しています。特に「生産管理・成果管理」の部分でいうと、自社開発のシステムを活用し「何を、誰が、どのように、どれくらいの時間で」業務を行なったのか、というプロセスを追跡しています。それをデータとして管理することで、その後の業務の割り振りなどにも活用しています。
リモートワークで重視されるセキュリティ面についても、フルリモートでありながらISMSおよびプライバシーマークを取得し、高いセキュリティレベルを誇っています。
【参考】フルリモートワークの実践例/独立行政法人 労働政策研究・研修機構
スーパーフレックス制度
スーパーフレックス制度とは、必ず出社が必要な「コアタイム」が設定されていないフレックス制度のことを言います。まだまだ日本ではスタートしたばかりの制度であるため、企業によって運用ルールは異なりますが、「月間総労働時間」を満たしていれば、日々の勤務時間を自由に設定することが可能なケースが多いようです。
スーパーフレックス制度のメリット
スーパーフレックス制度を導入する企業メリットは、大きく2つあります。
・優秀な人材とのエンゲージメントの確保
出社時間が選択できるため、社員自身が業務を進めたい時間帯だけ勤務することもできます。そうすると、集中して仕事に取り組むことができ、会社側も無駄な残業代を支払う必要がありません。通勤ラッシュを避けることもできるため、社員のストレス軽減にも繋がります。
また、先ほどのフルリモート正社員とも近い考え方ですが、働き方が自由に選べるということは、子育てや介護など、業務以外に時間を割かなければいけない事情のある社員には大きなメリットがあります。結果、優秀な人材、これまで育成してきた人材が働き続けることができ、最終的には人材の質の向上や採用・育成コスト削減にも繋がります。
スーパーフレックス制度のデメリット
大きなデメリットとしては、社員の勤務時間を一律に管理できなくなることです。一人ひとりの勤務時間を適正に管理できるITツールが必要になるでしょう。また、コアタイムを廃止することで、社員全員が顔を合わせることが少なくなります。定期的なオンラインミーティングや、オンラインのチャットツールを導入するなどして、社内のコミュニケーションが疎かにならないよう、バックアップする必要があります。
スーパーフレックス制度の事例紹介
通信大手ソフトバンクでは、2017年4月からスーパーフレックスタイム制度を導入しています。「生産性と成果を最大化」させることを目的としたもので、社員一人ひとりがメリハリをつけた働き方を実現しています。ある社員は、毎日のようにオフピーク通勤をしており、子どもの送り迎えや触れ合いの時間も大切にしながら働いています。他にも、業務に関するスキルアップを目指して、ワークショップやセミナーに参加するため、スーパーフレックス制度を活用している社員もいます。
【参考】Softbank流働き方改革/SoftBank RECRUITING SITE
副業の容認
近年、社員の副業を容認する企業が増えています。パーソル総合研究所の調査「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査(2021年3月)」によると、社員の副業を容認している企業は全体の55%。実に、半数以上の企業が導入していることになります。容認の理由としては、以下の理由が上位となっています。
・禁止すべきものではないので…26.9%
・個人の自由なので…26.2%
それに伴って、副業人口も増加。ランサーズの調査「フリーランス実態調査(2021年)」を見てみると、副業・複業ワーカーは812万人と、昨年の708万人から100万人以上増加しています。その背景には、リモートワークによって時間に余裕ができたことが要因と分析されています。
【引用】第二回 副業の実態・意識に関する定量調査/パーソル総合研究所
【引用】ランサーズ、『フリーランス実態調査 2021』を発表/PR TIMES
副業を容認するメリット
企業側が副業を容認するメリットは、大きく3つあります。
・社員が副業を通じて得た人脈を、本業に活かすことができる
・社員のチャレンジを後押しすることができ、結果エンゲージメントの向上に繋がる
副業を持つことで社員の収入の安定にも繋がりますが、企業側としては社員のスキルアップやエンゲージメントの向上をメリットと感じている企業が多いでしょう。
副業を容認するデメリット
企業側が副業を容認した場合の懸念点もあります。一つは、セキュリティの問題。例えば、同業他社で副業する場合に、自社の重要な情報が漏れてしまうリスクも。必ず、守秘義務についての研修などを実施して理解を徹底しておくことが必要です。
次に、労働時間の管理です。休日など、規定の勤務時間外の副業であれば労務上問題ありませんが、勤務時間内である場合は、その労働時間の管理は必要不可欠でしょう。副業を容認する場合には、例えばフレックスタイム制などのフレキシブルな働き方の導入、それに伴う勤怠管理システムの導入、さらには、「成果」を重視した評価制度が必要なケースもあるでしょう。
副業制度の事例紹介
2012年から副業を容認しているサイボウズ。現在では「複業採用」として、「今の仕事を続けながら、サイボウズでも働きたい人」も募集しています。2013年にサイボウズとITベンダーに同時に就職したのが、同社社長室の中村龍太さん。サイボウズでは将来のビジネスをつくる仕事、そしてITベンダーでは経営チームに所属し、システムの商談や体制を作っています。また、現在は農業もスタートしており、まさに3足の草鞋状態。副業のロールモデルにもなっており、2016年「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」において副業の実態を説明されています。
サイボウズには愛媛県松山市の拠点で、副業としてテレビ局のリポーターとして活躍する人材もいます。他にもプログラミング教室や社交ダンス教室の講師など、それぞれのスキルを活かした副業をこなす人もいるとか。「1つの仕事に縛られない人生」を楽しむ社員が増えています。
※複業(ふくぎょう)=「副業」は本業があることを前提にしたザブ的な仕事であるのに対し、「複業」は複数の仕事を持っていることを指し、「パラレルキャリア」とも呼ばれます。
【参考】1人1つの職業って誰が決めた? IT一筋27年、次に選んだ「会社に縛られない2+1複業」とは/サイボウズ
【参考】IT企業×テレビレポーター。2つのキャリアを両立して得たものとは/life hacker
ユニークな働き方の事例紹介
上記の働き方のほかにも、ユニークで先進的な働き方を取り入れている企業があります。
スイッチワーク/株式会社カオナビ
HR tech企業の株式会社カオナビは、昨年「スイッチワーク」という制度を新設しました。これは、1日の最低就業時間である4時間を確保すれば、目的を問わずスイッチをON/OFFするように何度でも出退勤できるというもの。つまり、細切れな働き方を認めています。
導入のきっかけは、コロナ禍で完全在宅勤務に移行した後、学校の休校などが続いたことから「子どもが在宅していると、仕事ができない」という声が挙がったこと。子どもの食事や世話のため、休憩時間以外に細切れにオフの時間を作れるようにしました。
現在では、副業のためにスイッチワークを使う社員もいるとか。業務時間にメリハリがつくようになったことで、自律的に時間の使い方を考えるようになり、結果、生産性の向上にも繋がっています。社員アンケートでも71%が「業務の生産性が向上した」と回答するなど、評判も上々です。
【参考】最低就業時間は1日4時間 細切れな勤務を認めたカオナビの「スイッチワーク」/CHANTO WEB
週休3日、週30時間労働、専業禁止/株式会社クロスリバー
働き方改革コンサルティングなどの企業成長支援事業を行う株式会社クロスリバー。2017年に創業した同社の社員は、「週休3日」「週30時間労働」「専業禁止(必ず複業)」を守っています。創業者である越川慎司氏の考え方は「働き方改革は”労働時間の削減”ではなく、”短い時間でより多くの成果を残すこと”が本質的な目的。」。それを体現するために、まずは自社で先進的な取り組みを実行しています。
また、1日7時間以上は眠るという睡眠時間のルールまで設けています。これらのルールを導入し、売り上げと利益は向上。ユニークな施策を見つけて、ユニークな人材からの応募も増えました。ワークライフバランスを重視する、優秀な人材も採用できるように。人材確保の面でも、大きな成果を上げられているようです。
【参考】「週休3日」でどれくらい成功できるかやってみようと思った/life hacker
社員とのエンゲージメント向上のため、ニーズに合った新たな施策が必要
いかがでしたか?コロナ禍における人々の価値観の変化により、求められる働き方も変化しています。社員のニーズを把握し、自社に最適な施策を導入しましょう。今回ご紹介した「フルリモート正社員」「スーパーフレックス制度」「副業の容認」は、いずれも社員にとっては、ワークライフバランスを保つことができる優れた施策です。それと同時に、企業メリットとして優秀な人材とのエンゲージメント向上が挙げられます。社員が幸せになり、定着率も向上すれば、自ずとスキルや経験も積み上げられます。そうすれば、企業の利益にも繋がるでしょう。現在、すでに労働力不足が叫ばれています。まずは、社員の価値観を知るところからスタートしましょう。
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。