新型コロナウイルスの感染拡大が始まって、はや3年が経とうとしています。世の中の働き方は、既に「ウィズコロナ」つまりニューノーマルな働き方にシフトしつつあります。そんななか、感染拡大状況にあっても政府から行動制限が出されない限り、出社を選ぶ企業や社員は多くいます。それでは、このウィズコロナ時代に求められる「オフィス」とは一体どのようなものなのでしょうか?
今回は、コロナ禍におけるオフィスの課題や、そもそもテレワークはどの程度導入されているのか。そして、実際にニューノーマルな働き方の実現に向けてオフィスをリニューアルした5社の事例をご紹介します。
ニューノーマルな働き方で、オフィスに求められるものとは
ニューノーマルな働き方とは
2020年初頭から新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、はや3年が過ぎようとしています。企業は感染状況によって、さまざまな対策を講じてきました。しかし、もはや「コロナ禍」以前の働き方に戻ることは無く、今後は「ウィズコロナ」つまり「ニューノーマルな働き方」にシフトすると言われています。
それでは、このニューノーマルな働き方とはどのようなものなのでしょうか?具体的に言うと、
◎テレワークなど、柔軟な勤務形態の導入
◎ソーシャルディスタンス(社員同士の距離を保つ)
◎営業活動や接客のオンライン化
これらの対策を、一時的なものではなくスタンダートにしていく必要がありそうです。
テレワーク導入率とテレワーカーの出勤日数
とりわけ「テレワーク」が叫ばれている昨今ですが、実際にどの程度導入されているのか。また、テレワークと出社のバランスについても見てみましょう。
2022年4月に実施された公益財団法人 日本生産性本部の調査を見てみると、2020年5月調査時のテレワーク実施率は31.5%だったものの、2022年4月には20%となっています。過去の調査を見てみても、1年以上20%前後を推移しています。
また、テレワーカーの週あたりの出勤日数は、
◎5日以上…20.9%
◎3-4日…31.8%
◎1-2日…28.6%
◎0日…18.6%
という結果に。1日でも出社しているという人が、全体の8割を超えています。
大手企業で営業職として働く筆者の友人も、コロナ禍が始まったばかりの頃はテレワークをしていましたが、2022年春頃からは基本的に「出社」が推奨に。そして、第7波の際も特に方針が変わることはなく、週5日間会社で仕事をしています。政府からの行動制限が出されない限り、企業側もテレワークを強いる理由は無いのかもしれません。
【出典】第9回働く人の意識に関する調査/公益財団法人 日本生産性本部
コロナ禍でオフィスに対する課題はどんなものがあるのか
これらの結果を見てみると、いまだ多くの人はオフィスに出社しているということになります。しかし、先ほどもご紹介したように「コロナ禍以前」と同じオフィスでは、ニューノーマルな働き方を実現することはできないでしょう。実際に、企業側は、コロナ対策などに頭を悩ませているようです。その上で、7割以上の企業がオフィスを見直しているとの調査結果が出ています。
月刊総務が2021年11月に実施した「オフィスに関する調査」によると、新型コロナウイルスによる働き方の変化に伴い、オフィスの見直しをしたかという問いに対し、「見直しをした」が43.5%と約半数となりました。「見直しを検討している」も32.1%と、その注目度の高さが伺えます。
また「コロナ前と現在のオフィスの課題」についての調査では、
◎個室ブースが足りない…63.7%
◎集中スペースが足りない…38.7%
◎会議室や来客スペースが足りない…33.5%
◎コラボレーションスペースが足りない…33.5%
という結果に。やはり、会議や営業活動、接客などもオンラインになっていることから、どの企業も個室ブースの不足に悩まされているようです。
【出典】オンライン商談用の個別ブース不足が課題に。今後のオフィスの役割は「社内コミュニケーション」/月刊総務
ニューノーマルな働き方に向けてオフィスをリニューアルした企業事例
※画像はイメージです
それでは実際に、ニューノーマルな働き方に向けてオフィスを改装した5つの事例についてご紹介します。
Hamee株式会社/「出社したくなる」オフィス
同社でも、コロナ禍でテレワークを導入していますが、実際にオフィスで顔を合わせてコミュニケーションをとることも非常に大切にしています。そうすることで、1人では思いつかなかったようなアイデアが生まれたり、モチベーションにも繋がったりする、と考えています。そのため、オフィスリニューアルの目的は「出社したくなるようなクリエリティブなオフィス」。まず、感染症対策として座席数を削減し、Zoom会議や集中したい時に使える「半個室」を10席新設しました。その上で、フリーアドレス制を導入し、コミュニケーションを促進するためにフロアの中央に公園のような開放的エリアを作りました。
フロアの中心に生木を設置し、その周りに、ドーナツ型のテーブルや、階段型のベンチを配置。また、椅子を曲線形にしてデザイン性を持たせるなど「クリエイティブなインプットとアウトプットを促進」し「コミュニケーションが生まれやすい」工夫が、あちこちに仕掛けられています。
【参考】早すぎた!?「新しい時代のオフィスづくり」総務担当者の現場レポート/Hamee公式(note)
日清食品ホールディングス/創業者の原点を再現したオフィス
日清食品ホールディングス(東京都)では「ニューノーマルな働き方の追求」を目的として、2021年に「NISSHIN GARAGE」というオフィスを竣工しました。同社でのオフィスの役割は「コミュニケーション」と「クリエイティブな発想」。そのため、部門間で偶発的な出会いをつくり、イノベーションを起こすためのオフィスづくりを目指しました。
同オフィスはフリーアドレス制ですが、部署の拠点は決まっています。ただ、その拠点は定期的に移動していて、さまざまな部署との関わりを増やしています。デザインは、創業者である安藤氏が「チキンラーメン」を開発したときの環境をイメージし、パイプや木製の家具などを使ってガレージのようなイメージの空間を作り上げています。
また、たとえば固定電話の電話番、郵便物の受け取り、備品の管理などコア業務以外は外注していて、一人ひとりが業務に集中できるようにしています。同社ではオフィス開設後も、随時データで社員の動きを観察しており、ハードだけでなくソフト面での対策も導入しつつ、オフィスを「運用」し続けています。
【参考】偶発的な出会いが創造性を育む日清食品ホールディングス「NISSIN GARAGE」/life hacker
富士通/ハイブリッドな働き方を実現するオフィス
富士通株式会社では、2021年に新オフィス「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」を新設しました。これは、ニューノーマルな働き方のコンセプト「Work Life Shift」を具現化したもの。同社では、オフィスへの出社は「リアルコミュニケーションの場」としていて、一人で取り組む仕事や会議などは自宅やシェアオフィスなどの利用を促しています。そのため、フロアの8割がディスカッションなどを行う「コラボレーションエリア」となっています。
また、手のひら静脈認証での入退室や複合機、食堂や社内バーでの清算。また、アバターで社内の混雑状況を確認できるシステムなど、さまざまなテクノロジーを使って「ウィズコロナ」時代のオフィス体験を快適なものにしています。
【参考】富士通のハイブリッドワークを具現化する新オフィスを公開/TECH+
東急Re・デザイン/ニューノーマルな働き方に対応するオフィス
住宅リフォームなどを手掛ける株式会社東急Re・デザイン(東京都)では、一部のオフィスを「これからの働き方」「オフィスの在り方」を実証するオフィスに改装しました。
200名ほどが所属するオフィスで、従業員の出社率は約40%(2020年12月)。完全フリーアドレス制で、人数に合わせたWEBミーティングブース、作業ブース、コミュニケーションラウンジ、仮眠室など用途に合わせたスペースが設けられています。
WEBミーティングブースにはノイズキャンセル機器も設置されており、オフィスで懸念されがちな会議音声もシャットダウンできます。また、入館時には顔認証や発熱検知機能が。キッチンにはタッチレス水洗が採用されるなど、ウィズコロナ対策の工夫も散りばめられています。
【参考】東急Re・デザインがニューノーマルな働き方に対応するオフィスを用賀に新設/TECH+
テスホールディングス/キャンピングオフィス
アウトドア用品大手snowpeakが、企業向けのオフィスデザインを手掛けていることをご存知ですか?今回は、その一例をご紹介します。環境にまつわるエンジニアリング事業を展開するテスホールディングス株式会社(大阪府)では、「コミュニケーションの活性化」を目的として、机が並ぶ日本的なオフィスからの脱却を目指しました。
新しいオフィスの真ん中には、「BASE CAMP」というキャンプエリアが配置され、スノーピーク製の大きなテントが張られています。その周りにはキャンプ用の椅子やテーブル、焚き火台などが並びます。また、川のせせらぎの音や、森の香りのアロマなどが設置されているリラックスエリアも。フリーアドレス制となっており、従業員はその時の気分や目的に合わせて「空間」を選ぶことができるような仕組みです。
この「BASE CAMP」は気軽なコミュニケーションが取りやすく、社員はランチタイムに使ったり、ラフな相談などに利用されたりしています。さらには、新入社員研修でもこのエリアが活用されています。壁が無いため、既存の社員と顔を合わせる機会も多く、さまざまな交流が生まれました。
結果、当初の目的であった「コミュニケーションの活性化」は、「十分達成できた」と評価されています。
【参考】五感で感じる自然のちから、垣根を越えてつながるオフィス。/snowpeakビジネスソリューションズ
人材だけでなく、オフィスの在り方も多様性の時代へ
いかがでしたか?筆者は、働き方改革について取材する機会が多いのですが、やはり最近はニューノーマルな働き方に対応している企業取材が多くなっており、その注目度の高さを感じています。コロナ禍になってからオフィスを解約し、全員を完全テレワークとした例。テレワークを可としたものの、やはり対面のコミュニケーションの大切さに気づき、本社の近くに住む社員に対する「手当」を新設した例。会社の規模や方針によって、各社さまざまな対応をとっています。人材だけでなく、働き方も多様性の時代。オフィスそもそもの「存在目的」も各社違ってきており、これからもどんどんユニークな事例が生まれてくると期待しています。
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。