2018年、政府は「モデル就業規程」を刷新し「副業禁止規定」を削除。実質、副業・兼業を推進しています。ある調査では、企業の半分以上で副業・兼業を「認めている」という結果も。しかし一方で、「副業を推進すると離職が増えるのでは」など、未知の働き方の導入を懸念する声も聞かれます。
今回は、近年注目を集めている「副業・兼業」について、そもそもの概念やメリット・デメリット、日本の現状や実際の運用ルールについて、詳しくご紹介します。
副業とは
2018年、政府が改訂した「モデル就業規定」では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という項目が削除となり、新たに副業・兼業についての規定が新設されました。これ以降、「副業」という言葉を耳にする機会が増えています。
厚生労働省が2022年10月に改定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を見ると、副業とは「二つ以上の仕事を掛け持つこと」とされています。その就業スタイルもさまざまで、主に「雇用型」「個人事業型」に分かれると言われています。
【出典】副業・兼業の促進に関するガイドライン(2022.10)/厚生労働省
雇用型
雇用型とは、正社員、パート、アルバイトなど、本業の業務時間外に、雇用契約した企業などで働くスタイルです。ただ、雇用契約が発生すると、雇用されている事業主が異なる場合でも「労働時間」が通算されるため、注意は必要です。
以前、副業の導入を検討する企業向けセミナーに参加したことがあります。そこで、「本業は会社員だが、趣味でヨガ講師の資格を持っているので、休日にインストラクターとして働いている」という女性に出会ったことがあります。全く違う職種ではありますが、副業をすることで生活にメリハリがつき、リフレッシュにも繋がっているとのことでした。
個人事業型
一方で「個人事業型」は、起業して個人として仕事を受けたり、委託されたりして業務を遂行するスタイル。例えば、本業であるコンサルタントの業務を、個人として引き受ける。週末だけ、農業に従事する…など、働き方の幅は広がります。
先ほどお話した副業セミナーの講師は、「副業をするのであれば、個人事業型がおすすめ」と話していました。なぜなら、自分自身で商品や売り方について考えるなど、会社員では経験できない「ビジネスの流れ」を学ぶことができるから。本人にとって大きなスキルアップに繋がるだけでなく、ビジネスを「自分ごと」と捉えることができる社員が増えることは、企業側にとっても大きなメリットになると語られていたのが印象的でした。
副業のメリット・デメリット
ここで、副業について人材側と企業側のメリット・デメリットについて簡単にご紹介しておきます。
【人材側】
◎メリット
・スキルアップに繋がる
・収入が増える
◎デメリット
・労働時間の管理が必要
・確定申告などの複雑な作業が必要なケースも
【企業側】
◎メリット
・社員のスキルアップに繋がる
・柔軟な働き方を取り入れることで、社員とのエンゲージメントが向上
◎デメリット
・本業がおろそかになる可能性
・自社の機密情報などが漏洩するリスク
これ以外にも、「副業をさせることで、人材流出に繋がるのではないか…」と導入を躊躇する企業も多いそう。確かに、他社・他職を経験することで、優秀な社員がそちらに流れてしまうというリスクはあります。国が推奨し始めて4年とはいえ、まだまだ未知の「副業」。様子見の企業が多いことも納得です。
日本における副業の現状
2018年に国が実質的に副業を推進して以降、日本における「副業」はどのような状況なのでしょうか。
なぜいま、副業が推進されているのか
かつては、基本的に認められていなかった「副業」。そもそも、なぜ国が推進する事態になったのでしょうか。厚生労働省のガイドラインには、その理由として
副業・兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効とされています。また、人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要であり、副業・兼業などの多様な働き方への期待が高まっています。
【引用】副業・兼業の促進に関するガイドライン(2022.10)/厚生労働省
と記載されています。ただ、これ以外にも
◎少子高齢化による優秀な人材の確保
◎人材のスキルアップ
◎個人所得の増加
などが、背景にあると考えられています。一つの企業だけでなく、複数の企業で働くことによって、企業側も優秀な人材を確保しやすくなり、人材も複数の職業を経験することで成長に繋がるというもの。また、働く人たちの所得が増加することで、大きな経済効果も期待できるのでしょう。
経団連の調査では、70%以上の企業が認めているor認める予定
それでは、実際にどの程度の企業で副業が認められているのか見ていきましょう。2022年の経団連の調査「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によると、「自社の社員が社外で副業・兼業すること」について
◎認めている…53.1%
◎認める予定…17.5%
◎検討していない…21.5%
◎認める予定はない…8.0%
という結果となっています。「認めている」「認める予定」が合計で7割を超えるなど、全体的にポジティブに捉えられている印象です。特に、従業員数5,000名以上の大企業では既に66.7%で認められています。
また、副業・兼業を認めた(社外への送出)ことによる「効果」については、
◎多様な働き方へのニーズの尊重…43.2%
◎自律的なキャリア形成…39.0%
を挙げる企業が多かったとのこと。あくまで「働き方改革」の一環として捉えられているケースも多いようです。
先日、ある企業の取材の中で「副業」の話題になりました。その企業は従業員数5,000人以上の大手で「本業に良い影響がある場合」という条件付きで副業が認められているとのこと。本業は不動産関連ですが、担当者の方はスポーツ用品店で販売員として副業されていました。趣味が「スポーツ」ということで、もっと知識を深めたいと思ったのがきっかけだそう。
ただ、本業でも「営業職」として活躍するその方は、まったく商材が違う業界での営業を通して、新たなスキルや視点を身につけられたとのこと。人材、本業・副業先の企業にとってWin-winな関係ができている事例だな、と感じました。
【出典】副業・兼業に関するアンケート調査結果/日本経済団体連合会
コロナ禍で副業人材が増えている
パーソルキャリア「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)」によると、正社員の副業実施状況について、
◎したことはない…81.2%
◎現在はしていないが、過去にしたことがある…9.5%
◎現在している…9.3%
という結果に。国が推進し、企業も容認している割に実施している人は多くない印象です。やはり「導入」はされているものの、形骸化している部分もあるのかも知れません。実際に、どのような職種の人が副業をしているかと言うと、
◎コンサルタント…29.8%
◎Webクリエイティブ…20.1%
という結果に。会社の名前ではなく、個人の持つスキルやセンスで仕事をしている人は、副業で成功しやすいのかも知れません。
【出典】第二回副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)/パーソル総合研究所
副業容認後の運用方法
この記事を読まれている方の中には、自社で副業導入を検討されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。副業を導入する際、その「運用」についても気になります。今回は、既に導入している企業の調査結果からヒントを探りたいと思います。
就業規則
まず「就業規則」についてですが、「副業」に関して何かしら記載している企業は全体の57.7%にとどまりました。「全面容認」している企業でも42.8%となっています。
社員が副業を検討する際、最初に確認するのが「就業規則」です。自社がどのような運用をするかをまず明確にした上で、就業規則に追記しておく必要があるでしょう。
運用ルール
運用についてですが、主に「完全容認」「許可制」「届出制」があります。
完全容認は、制限無く自由に副業させるというもの。「許可制」は、従業員からの申請を元に、会社側で審議しその業種・内容・業務時間などを加味して許可を出すというスタイル。そして「届出制」は、審議こそされないものの、一定のルールの上で申請し、会社も把握した上で副業に従事するという形です。
実際に副業を容認している企業では、運用のスタイルについて
◎届出・申請…56.2%
◎許可制…55.7%
となっています。また、副業開始後に活動報告を義務付けるなど、何かしらのルールを設けている企業は37.3%となっています。
【出典】第二回副業の実態・意識に関する定量調査(2021年)/パーソル総合研究所
副業を容認している企業の運用ルール
それでは、実際に副業を導入している企業はどのように運用しているのでしょうか。2019年と少し古い情報にはなりますが、フリーランス協会が副業解禁企業12社に「運用制度」に関するヒアリングを実施しレポート化しています。
例えば、2009年から一部で副業許可を出していたサイボウズ株式会社では、会社の資産(パソコン)などを利用する場合と、雇用される場合のみ「申請が必要」というルールとなっています。株式会社メルカリでは、申請・承認ともに不要で、条件として「競合する可能性がある会社での雇用・業務委託」など、NGの場合のルールのみ明記されているそう。
ロート製薬では届出制となっており、調査時点で既に84名の社員が副業に従事。デザイナー、コンサルタント、薬剤師、少年サッカー指導者などバラエティに富んだ職業で活躍されています。「副業している従業員の方が、パフォーマンスも上がっている」という効果も感じられているそうです。
身近な導入企業が少ないなかでネガティブな面も気になりますが、しっかり運用ルールを定めた上で解禁すると、社員の新たな可能性や、ビジネスチャンスに出会えるかも知れません。
【参考】【フリーランス協会】副業解禁企業12社の運用制度に関するレポートを公開/フリーランス協会
地方自治体でも積極採用される副業人材
いかがでしたか?今回「副業」について多くの情報を調べましたが、企業だけでなく地方自治体でも副業人材を積極採用されているそう。広島県福山市では、国の政策に先駆け2017年から副業・兼業で民間の人材採用をスタート。事業の戦略立案などをサポートする人材を募集し、医療機器メーカーやコンサルティング会社などから、複数の人材を採用しています。これは、それまで地方公務員だけで担ってきた市政に、外部の発想を取り入れてイノベーションを起こそうとするもの。「福山モデル」として大手メディアでも取り上げられ、注目されています。
私の住む四国・愛媛県でも、2020年より外部から「副業人材」として「デジタルコーディネーター」を募集し、採用しています。実際に、AIソフト開発企業、医療機器メーカー、教育関連企業を本業とする3名が入職し、週に1回テレワークを中心に業務に従事されたそうです。
優秀な人材が、大手企業だけでなく副業として地方都市や中小企業などに入り、そこでイノベーションを起こすことによって、もっと社会全体が活性化され日本経済が元気になれば良いな…と心から思います。「副業人材」の活躍に期待です!
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。