今や、多くの人が自ら情報を発信し、かつ情報を得られるツールとなっている「SNS」。総務省の調査(2023年発表)によると、全世代の50.1%が「Instagram」を、87.1%が「YouTube」を、「LINE」に至っては94%が利用しているそうです。今回は、このSNSを活用した企業マーケティングについて、日本企業のSNS活用実態や、活用するメリット・デメリット、そして実際に運用する際の4つのステップから、5大メディア別の企業の成功事例まで、調査結果を交えながら詳しくご紹介します。
企業における「SNS活用」の実態
近年、SNSをブランディングやマーケティングに活用する企業が増加しています。実際にどの程度の企業が活用しているのか、そしてその理由は何なのか、詳しく見ていきましょう。
企業のSNS活用は進んでいるか
総務専門誌「月刊総務」の、総務人事担当者を対象とした「企業ブランディングとSNS活用についての調査」(2022年)を見てみましょう。
まず、企業のSNS活用について聞いたところ、「とても必要(51%)」「やや必要(43%)」と、必要と感じている人が全体の9割以上となりました。しかしその一方で、「自社のSNS活用についてどう思うか」という問いに対しては、
◎とても進んでいる…2%
◎やや進んでいる…47%
◎全く進んでいない…51%
という結果に。ほとんどの人が必要性を感じていながらも、実態は全く進んでいないという現状が半数以上となりました。「進んでいない」理由としては、
◎ノウハウがないから…41.2%
◎何をすればいいかわからないから…31.4%
◎必要性を感じていないから…25.5%
◎SNSになじみがないから…23.5%
という結果に。とにかく、SNS自体の歴史がまだ新しく、それを企業のマーケティングに活用するとなると、ノウハウが蓄積していないというのが現実のようです。
企業SNSで活用されているツール
それでは、SNSを活用している企業では、実際にどのツールを使っているのでしょうか。同調査によると、
◎YouTube…41%
◎Twitter…35%
◎Facebook…32%
◎Instagram…31%
◎LINE(オープンチャット、公式アカウント)…14%
が上位となっています。反対に、「活用しているものはない」と回答した企業は30%となっています。
総務省が2023年に発表した「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」において、主なSNSの年代別利用率を見てみると、今や生活のインフラとも言える「LINE」に次いで「YouTube」も大半の人が利用しているという事が分かります。
音声と映像で情報を多面的に伝えられること、そして多くの人にリーチできるという点で「YouTube」が選ばれているのでしょう。
【出典】令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(P11)/総務省情報通信政策研究所
【出典】企業ブランディングとSNS活用についての調査(2022年)/月刊総務
企業がSNSを活用するメリット・デメリット
それでは、企業がSNSを活用する際にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
メリット
まず、メリットとしては以下の点が挙げられます。
◎企業や商品の知名度アップ
◎企業のイメージ向上
◎人材との接点に繋がる
先の調査(企業ブランディングとSNS活用についての調査/月間総務)でも、「SNSを活用する目的」として「会社の知名度向上」「採用」「製品・サービスのプロモーション」が上位となっています。SNSは投稿がユーザーの目にとまれば、それらが自然に拡散され、話題となり、SNSユーザー以外にも広く知られることとなります。
実際に、赤しそふりかけ「ゆかり(R)」で知られる広島県の三島食品では、広島菜を使った新商品「ひろし(R)」を発売したところ、X(旧Twitter)で”バズる”ことに。それまで女性の名前のような名称のふりかけが多かったことから、「誰?」「知らん男が増えている」などと話題になり、商品が品薄状態となりました。最終的に、当初の目標の約8倍である4億円以上を売り上げたそうです。
【参考】三島食品「ひろし」が大ヒット 当初計画の約8倍販売記録して「うめこ」を凌駕 広島菜漬の需要高まる波及効果も/食品新聞
【出典】企業ブランディングとSNS活用についての調査(2022年)/月刊総務
デメリット
一方で、デメリットとしては以下の点が挙げられます。
◎炎上リスクがある
◎運用の管理やルール作りが難しい
◎担当者の負担が増える
先ほどもご紹介したように、社内での運用面はSNSを推進する上で大きな壁となっています。しかし、それよりも企業が恐れるのは「炎上」でしょう。企業SNSによる炎上の事例で言うと、数年前に某大手テーマパークのSNSが、8月9日(長崎原爆投下の日)に「なんでもない日おめでとう」と投稿したことから炎上し、謝罪に追い込まれています。テーマパークで取り扱う作品のセリフの和訳であり、故意では無かったものの、ネガティブな印象だけが残ってしまう結果となりました。
企業SNS運用のポイント
それでは、企業内でSNS活用を推進する際、どう進めれば良いのでしょうか。ポイントを解説します。
発信の目的と情報を届けるターゲットを設定
まずは「発信の目的」です。先ほどご紹介したように、例えば「会社全体の知名度向上」「採用」「製品・サービスの告知」どれを取るかによって、投稿内容はまったく変わってきます。それが決まれば、情報を届ける相手を設定します。年代、性別などの属性から、可能であればさらに具体的な「ペルソナ」まで設定します。細かく取り決めておくことで、より読者に届く内容になるだけでなく、担当者間での認識のズレも防げます。
メディアを選定
メディア選定も重要です。世の中には多くのSNSがありますが、主に活用されているのは「YouTube」「X(旧Twitter)」「Facebook」「Instagram」「LINE」です。メディアにはそれぞれ個性があり、さらによく利用している年代や性別なども違うため、自社のターゲット層にはどのメディアが最も届くのかをよくよく検討する必要があります。また、複数のメディアを用途によって使い分けるという方法もあります。
運用体制・ルールを決める
社内SNSの運用体制を決めます。広報を担う部署が担当したり、総務で兼務したりするケースも多いと言われています。先に設定したターゲットと、属性や価値観の近いスタッフを配置するのも良いでしょう。チームができたら、更新頻度、運用ルールなどについて決めておきます。特に運用ルールは重要で、個人情報や機密情報を漏らさないということはもちろん、全スタッフが著作権など情報発信に関する基礎知識を身につけておく必要があります。
発信内容を決める
最後に、発信やコンテンツの内容を決めます。特に近年は「共感マーケティング」が叫ばれる時代。単純に商品やサービスの情報を、企業目線で発信しても消費者の目に止まりません。例えば「新卒1年目の○○です!」など、具体的な「中の人」をイメージさせた上で、読者にとって「有益」となる情報を提供しましょう。例えば、自社のサービスに関連するTIPSを掲載するなどして、徐々にファンを増やす方法もあります。
【メディア別】企業SNSの成功事例
最後に、メディア別に企業SNSの成功事例について見ていきましょう。
※フォロワー数は、2023年8月末時点の数字です
YouTube/日清食品
日清食品のYouTubeチャンネルは、23.6万人の登録者を誇り、定期的にユニークなCM動画がアップされています。公開から1ヶ月で、約750万回再生された動画もあります。「カップヌードル」「UFO」などのCMには、YouTube上で話題となっているチャンネルとコラボレーションしたものも複数あり、YouTubeの視聴者層と親和性の高いコンテンツとなっています。
X(旧Twitter)/ローソン
Xにおいて企業アカウントNO.1と言われる、791.3万人フォロワーを抱えるのが「ローソン」のアカウントです。ローソンでアルバイトを始めた大学生「あきこ」が発信しているという設定で、日々新商品の情報を短文・写真付きで紹介しています。その多くはリツイートされており、どんどん情報が拡散されていることが分かります。
Facebook/Relax
宿泊予約サービス「Relux」のFacebookアカウントは、いいね!(フォロー)数が114万件です。同社で予約できる各地の宿の動画や、質の高い写真などを定期的に投稿しています。また「泊まってみたい人は絵文字を送って教えてください」など、基本的に実名登録であるFacebookならではの顔が見えるコミュニケーションも実現しています。
Instagram/ダイソー
100円ショップ「ダイソー」のフォロワー数は181.6万人です。商品が分かりやすく撮影された写真とコピーを1枚の画像にまとめ、それを見れば商品の概要が分かるよう工夫されています。調理アイテム、工作グッズ、化粧品など、動画の方が分かりやすいものについてはリールも投稿されており、多いものでは100万回以上再生されています。
LINE公式アカウント/楽天市場
公式アカウントのうち、LINEスタンプに次いで2位の登録者数(5,565万人)を誇るのが、楽天市場です。SALEなどの最新情報のほか、オリジナルキャラクター「お買いものパンダ」の無料スタンプや、友達限定クーポンが届いたり、くじやゲームなどに挑戦できたりする仕組みです。
【おわりに】
みなさんは、日々どのくらいSNSを利用しているでしょうか?総務省の調査によると、例えば20代の平日の平均利用時間は87.3分、休日は115.7分となっています。今や、多くの人が日々当たり前のように活用している「SNS」。そこに「自然な形で」情報を提供する、もしくは「共感」を得てファンを増やすなど、もっと一人ひとりの消費者に届く形のマーケティングが必須の時代になってきていると感じました。
【出典】令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(P7)/総務省情報通信政策研究所
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。