テレワークの普及や、営業・接客のオンライン化により、チャットなどの「テキストコミュニケーション」やオンラインビデオツールを使った「動画コミュニケーション」の利用頻度が急増しています。これにより、「細かなニュアンスが伝わらない」など、さまざまな課題を感じる人も増えてきています。
いずれのコミュニケーションも、対面の会話とは違ったスキルが必要になってきます。今回は、新しい時代の主流になりつつあるこれらのコミュニケーション手法について、それぞれに気を付けるべきことや、詳しく学べる書籍についてご紹介します。
コロナ禍で起きたコミュニケーション手法の変化
テレワークの普及や、営業活動・接客などがオンライン化されたことにより、日々のコミュニケーション手法が変化してきました。それは「テキストコミュニケーション」の増加です。
株式会社日本能率協会マネジメントセンターの調査「コロナ禍におけるコミュニケーションの実態調査」では、「この1年間で、メールやコミュニケーションツールなどで文章のやり取りをすることが増えたか」という質問に対して「増えた」と回答した人が88.6%という結果となりました。
同時に、「動画コミュニケーション」も増えています。2022年に実施された「業務用ビデオコミュニケーションの導入・利用実態調査」では動画コミュニケーションの利用頻度について「会社で毎日利用」していると回答した人が39.9%となり、同調査の2020年分と比較すると約2倍となっています。
このように手法がオンラインにシフトしたことによって、いつでも・どこでもコミュニケーションが可能となった一方で、課題も生まれています。詳しく見ていきましょう。
【出典】データで見るコロナ禍における「コミュニケーション」の実態調査/株式会社日本能率協会マネジメントセンター
【出典】業務用ビデオコミュニケーションの導入・利用実態調査2022/株式会社シード・プランニング
テキストコミュニケーションで必要なこと
それでは、テキストコミュニケーション・動画コミュニケーション、それぞれの手法において気を付けるべきことをご紹介します。まずは、テキストコミュニケーションです。
まず、ビジネスチャット「LINE WORKS」を運営するワークスモバイルジャパンの「在宅勤務時のコミュニケーションに関する意識調査」の結果を見てみましょう。同調査によると「在宅勤務時の連絡・コミュニケーションでストレスを感じる理由」として「テキストでの連絡ではニュアンスが伝わらない」と回答した人が54.5%となっています。
筆者はフリーライターであり、コロナ禍になる前から、メディア編集者の方々と「Chatwork」「Slack」などのビジネスチャットツールでやり取りしています。テキストコミュニケーションについては自分なりに研究してきましたが、やはり以下の5点が重要だと感じています。
【出典】20代・30代対象:在宅勤務時のコミュニケーションに関する意識調査/ワークスモバイルジャパン株式会社
文章は、簡潔に・シンプルに
長く分かりにくい文章は、相手の時間を奪うことに繋がります。基本的にチャットでのやりとりの場合、長々と文章を書き続けないようにしています。伝えたいことが多い場合は、ポイントを過剰書きにするなど、相手が理解することに時間を要さないよう気をつけています。
表情が見えないからこそ、文章の表情を豊かに
これはやりとりする相手にもよりますが、文中に「…」「!」などのマークを使ったり、表情の絵文字を使ったりするなど、文章が「棒読み」にならないようにしています。以前、対面で会話した時はフランクな印象だった方が、テキストコミュニケーションになると別人のように冷たかった(そう感じた)経験からきています。文章に抑揚が無いと、時には怒っているようにとられることも……。必要に応じて、表情豊かな文章になるよう心がけています。
クッション言葉をうまく使う
例えば、チャットにファイルを添付して「確認お願いします。」とだけ送ると、すごく冷たい印象を受けませんか?人によっては、ムッとしてしまうこともあるでしょう。逆に「○○が完成しましたので、確認をお願いします。お忙しい中恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。」などとクッション言葉を付け加えると、同じ内容でもまったく違う印象になります。ビジネスマナーとしてよく紹介される「クッション言葉」ですが、テキストコミュニケーションの場合は、より重要です!
タイミングを誤らない
先ほどご紹介したワークスモバイルジャパンの調査内の「在宅勤務時の連絡・コミュニケーションでストレスを感じる理由」として「連絡に対する返信が遅い」と回答した人も43.3%となっています。テキストコミュニケーションだからといって「落ち着いたら返そう」と時間を置く人もいますが、レスは速めに!が基本です。返信について検討する必要があり、遅くなりそうな場合には「明日にはお返事します」とか「出先なので、夜になります」など、状況を手短にお知らせすると相手にストレスを与えません。
また、テキストとはいえ土日や夜間はなるべく避けましょう。どうしても送る必要がある場合は「夜分にすみません」「お休みのところすみません」など、一言断りを入れるようにするのがベターです。
すべをテキストで終わらせない
テキストの会話がベースにあるとはいえ、例えば誤解が生まれそうなこと、説明が難しいこと、トラブルについてなどは、なるべく直接会話する方がスムーズです。要点だけテキストで送り、それについて電話で補足などをするとベストでしょう。最近、slackで「ハドルミーティング」という機能が追加されました。これは音声チャット機能で、Zoom会議などのようにあらかじめ時間を設定することなく、ボタン一つで気軽な音声会話を始められます。必要に応じて会話も交えながら、お互いに気持ちの良いコミュニケーションを心がけましょう。
動画コミュニケーションで必要なこと
次に、動画コミュニケーションで必要なことについてご紹介します。
一見、対面と変わらないように見える動画コミュニケーションですが、基本的にバストアップしか見えず、対面と違って相手の細かい表情までは読みとることができません。そこで大事になってくるのは「非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)です。これは、主に表情、声のトーン、ジェスチャー、姿勢など「言語」以外の部分で伝えるコミュニケーションのことを言います。
ここで「メラビアンの法則」をご紹介します。これは、人と人とのコミュニケーションにおいて「言語情報」より「聴覚・視覚情報」の方が、相手に与える影響が大きいことを示した法則。具体的には、相手に与える印象を決定する情報の割合を、言語情報7%、聴覚情報38%、視覚情報55%としています。
筆者も、コロナ禍で取材が対面からオンラインに大きくシフトしました。以前は対面取材が9割でしたが、現在はその割合が逆転しています。その状況で気をつけていることは、以下の5点です。
◎話し方…対面より滑舌良くハッキリと。口の動きも大きく。言葉も短く簡潔に。
◎表情…喜怒哀楽を表情で示す。眉毛を大きく動かす。目や口の動作も大きめに。
◎動作…対面よりも表情がクリアに見えない分、頷きは大きく。手振りも多用する。
◎姿勢…猫背になったり、足を組んだりするのはNG!(見えない部分も、上半身の姿勢から推測できる)
◎視線…ビデオ会議では目線が合わなくなりがち。カメラ目線を意識する。
これらを意識するようになってから、オンライン取材で相手の「?」という表情や、会話が弾まない…ということが少なくなりました。対面取材とオンライン取材はまったく別物と考え、限られた時間をスムーズに進行できるよう、事前準備もしっかりと行っています。
テキストコミュニケーションを学べる書籍紹介
テキストコミュニケーション、ノンバーバルコミュニケーション、いずれもここで紹介しきれるほど簡単なものでもありません。そこで、それぞれについて詳しく書かれた、コミュニケーションが学べる書籍をご紹介します。
まずは、テキストコミュニケーションです。
「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。/藤吉豊・小川真理子(日経BP)
書籍ライティングや編集業を営む藤吉豊さんと、ビジネス書や実用書などを執筆する小川真理子さんの著書。「メール・チャットは60文字以内で文を終わらせる」「接続詞を正しく使う」など、あらゆる文章を書く際のノウハウが詰まった一冊。この1冊で、100冊分のスキルを学べる、お得な本です。
▶︎書籍紹介ページ
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/21/P89060/
テレワーク時代のメール術 評価される人は1通のメールで仕事が終わる/平野友郎(文響社)
一般社団法人日本ビジネスメール協会の代表理事 平野友郎さんの著書。「テレワークの悩みはすべてメールで解決できる」という帯に惹かれます。テレワークの普及で組織課題ともされる「部下の仕事ぶりが見えない」や「テレビ会議が多すぎる」「メールが大量に届く」なども、メールの活用で解決できると言います。メールに雑談を入れる、CCの乱用を防ぐなど、テレワーク時代にマッチしたメール術が紹介されています。
▶︎書籍紹介ページ
https://www.wave-publishers.co.jp/books/9784866213088/
仕事が速い人はどんなメールを書いているのか/平野友郎(文響社)
先ほどの書籍と同じ著者の本です。これまで、1万通以上のメールを添削してきたという平野さん。仕事の速い人は、ついつい多用しがちな「お手すきのときに…」などは使わないそう!また金曜の夕方(1週間の終わり)には重要なメールを送らないなど、より実践的なテクニックが満載の一冊です。
▶︎書籍紹介ページ
https://bunkyosha.com/books/9784905073789
ノンバーバルコミュニケーション
最後に、非言語(ノンバーバル)コミュニケーションについて学べる書籍をご紹介します。
伝わり方が劇的に変わる! しぐさの技術/荒木シゲル(同文舘出版)
パントマイムアーティストであり、コミュニケーショントレーナーの荒木シゲルさんの著書。「頑張っているのに評価されない」「意思疎通がうまくいかない」…そこには言葉以外の原因があるかも知れません。この本では「自分の思い通りに伝える、身体コントロール」「相手との力関係を左右する、ステイタス・コントロール」など、さまざまな状況に合わせたノンバーバルコミュ二ケーションのノウハウが紹介されています。
▶︎書籍紹介ページ
https://www.dobunkan.co.jp/books/detail/002806
対人援助の現場で使える 言葉〈以外〉で伝える技術 便利帖/大谷佳子(翔泳社)
昭和大学保健医療学部の講師であり、認知症介護実践リーダー研修コーチなども務める大谷佳子さんの著書。
看護や介護など、コミュニケーションが非常に重視される現場で使える、「非言語コミュニケーション」が心理学に基づいて解説されています。例えば「滑舌良く話すには、イの段をはっきり」など、かなり具体的な方法までしっかり書かれています。書籍レビューを見てみると、医療現場だけでなくビジネスシーンでも活用されていることが分かる、マルチな一冊です。
▶︎書籍紹介ページ
https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798171470
10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと/佐藤綾子(ディスカヴァー)
株式会社国際パフォーマンス研究所の代表であり、心理学者でもある佐藤綾子さんの著書。こちらは、ノンバーバルコミュニケーションのポイントと、選ぶフレーズについても紹介されています。10秒間で、人間は約44の要素しか伝えられないそう。「お願いする」「謝罪する」「言いにくいことを言う」「自己アピールする」「共感する」「ほめる」「叱る」「本音を引き出す」の8つのテーマにおける「10秒の使い方」が、ノンバーバルコミュニケーションのポイントを表したイラストと共に解説されています。
▶︎書籍紹介ページ
https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2836-1
コミュニケーション手法は変化 対面と同じ方法ではNG
いかがでしたか?普段テキスト&動画コミュニケーションがメインの筆者ですが、文中でも書いたように対面で話すと普通なのに、テキストベースだと攻撃的だったり「言い方…」と感じたりしてしまう方がいらっしゃいます。分かってはいるけど、それを受け取ると一気にモチベーションが下がってしまうことも……。特に「コロナ禍で初めてチャットを使った」という方は、慣れていないため、そうなってしまう傾向があるようです。会話とはまったく違う手法だということを理解した上で、お互いに気持ちの良いコミュニケーションにできれば良いなと思っています。
この記事を書いたひと
三神早耶(みかみさや)
大学卒業後、広告代理店に入社。企画営業と制作進行管理を兼務。その後、出版社でコンサルティング営業、国立大学でeラーニングツールの運営や広報サポートなどを担当し、2016年よりフリーライターに。経営者向けウェブメディア等で、経営者インタビュー、組織改革、DXなどについて取材・執筆。