ワーケーションとは?企業へ導入するメリットデメリット&成功事例を紹介!

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ワーケーション制度を導入しようと検討中の企業の代表、および人事・総務担当者の方に向けて、ワーケーションのメリットとデメリット、成功している企業の事例をまとめました。ワーケーションとは何なのかという用語や由来、導入する場合の具体的な勤務スケジュールの例なども紹介します。

テレワークの普及とともに注目が集まる「ワーケーション」とは?

テレワークの普及とともに、新時代に対応した働き方として「ワーケーション」が注目されています。
ワーケーションとはどのような制度なのか、言葉の意味や打ち出された経緯を解説します。

ワーケーションはどういう制度?言葉の定義と由来

ワーケーションとは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語です。2000年代にアメリカで発祥した言葉で、海外では何年も前からワーケーションが実施されていました。日本では近年の働き方多様化の影響を受けてすこしずつ浸透してきたところです。

ワーケーションは、普段の職場と異なるリゾート地や地方の観光地で休暇を取得しながら働くことです。休暇先にパソコンを持ち込み、仕事をしながらバカンスを楽しむというワークスタイルです。職場から離れた場所で仕事を行う点ではテレワークと同じですが、テレワークは仕事が主目的なのに対し、ワーケーションは休暇が主目的なのが決定的な違いです。

元々は国の「五輪対策」として提唱された?!

ワーケーションという言葉が普及したのは、国の五輪対策として内閣府や日本テレワーク協会がワーケーションを強く推進し始めたからです。東京五輪には多くの来訪客が押し寄せるため、交通機関の大渋滞が予測されていました。

そこで、総務省主導のもと、当初予定されていた開会式の日を「テレワーク・デイ」とし、在宅勤務推進キャンペーンを実施、首都圏への通勤者を減少させようと試みましたが、それだけでは減らないと推測し、今度は内閣府が「ワーケーション」を提唱しました。五輪期間中、働く場所を地方に移すことで首都圏の人口を分散させようと考えたのです。

ワーケーション推進事業には、首都圏人口の分散目的以外に、「関係人口」を増やす目的があります。地方の観光地に、定住者でも観光客でもない「関係人口」を増やせば、宿泊施設の平日やオフシーズンの稼働率向上が見込めたり、周辺の事業者にも恩恵がもたらされたりします。ワーケーションは関係人口を増やすのに適した事業で、受け入れ先の自治体にとっては地域活性化のチャンスです。

ワーケーション客の誘致に積極的な自治体は多く、長野県や和歌山県は、ワーケーションの全国的な普及促進を目指す団体「ワーケーション自治体協議会」設立に向けて早くから行動を起こしていました。2019年に設立後、加盟自治体数は右肩上がりで、2021年9月現在で198の自治体が加盟し、ワーケーション誘致を行っています。

観光地として有名な北海道や、リゾート地として有名な沖縄や軽井沢なども加盟しており、ワークスペースとしての宿泊先やネットワーク環境を整備するほか、それぞれの地域の特性を活かしながら受け入れ態勢を整えています。国や自治体の支援が充実している今、ワーケーション導入のハードルは下がっていると言えます。

ワーケーションでどう働く?勤務スケジュールの具体例

ワーケーションを行う場合、実際にどのような働き方になるのか、旅行会社「JTB」と「じゃらん」が提案している、休暇とリモート勤務を組み合わせた具体例を2つご紹介します。

4泊5日で滞在する場合

1日目(水)有給利用 移動
2日目(木)勤務
3日目(金)勤務
4日目(土)休日
5日目(日)休日 移動

8泊9日で滞在する場合

1日目(土)休日 移動
2日目(日)休日
3日目(月)勤務
4日目(火)勤務
5日目(水)勤務
6日目(木)有給利用
7日目(金)有給利用
8日目(土)休日
9日目(日)休日 移動

このように、土・日を組み合わせれば、有給の取得を少なく済ますことができ、旅行先で長期間過ごせます。近場への旅行や同じホテルに滞在するなら、スケジュールはより組みやすくなり、勤務日でも仕事の前後は家族との時間を楽しめます。

どんな効果がある?ワーケーションの導入で企業が得られるメリット

ワーケーションを実施することで企業は様々なメリットを得ることができます。大きなメリットとして、従業員の満足度向上、有給休暇の取得促進、従業員の生産性向上、BCP対策の4つがあります。これらについて詳しく解説します。

従業員満足度の向上による、離職率の低下&優秀な人材の確保

株式会社Link Lifeが2021年2月に20代以上の社会人750名を対象に行ったワーケーションに関するアンケート調査によると、8割以上の人が「ワーケーションをやってみたい」もしくは「興味がある」と回答しました。ビジネスパーソンにとって、ワーケーションは世代を問わず魅力的であると期待されていることがわかります。

ワーケーションは集中して仕事ができる、リフレッシュできる、滞在先に地域貢献ができると感じている人も多く、新たな着想や仕事のモチベーション向上につながると感じている人も合わせて4割ほどいます。従業員の満足度が向上すれば離職率の低下も期待できます。働き方の選択肢が広いことは企業のアピールポイントにもなり、優秀な人材確保にもつながるでしょう。

働き方改革の一環として、有給休暇の取得促進につながる

2019年、働き方改革関連法の成立によって「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられました。人手不足や休暇取得に対する罪悪感などから、日本の有給取得率は世界的にも低いことで有名です。ワーケーションなら有給と組み合わせることで長期休暇を取得でき、従業員の有給休暇取得率の向上につながります。

従業員の生産性向上やイノベーションの創出が期待できる

リゾート地や温泉地など、普段と異なる環境で通勤のストレスから解放され、リラックスしながら自分のペースで仕事ができるので、新たなアイデアが閃きやすく、生産性向上やイノベーションの創出が期待できます。旅先で得られるリフレッシュ効果は、生活習慣改善や健康維持・増進、メンタル面にも良い影響を与えます。

ワーケーションによる地域との連携強化が、BCP対策にも

ワーケーションでは、地域の人たちとの交流を通じて、その地域の課題やニーズを共有することができます。課題解決に向けて意見や知恵を出し合っていく中で、地域との連携が強化されます。

地域との連携強化は、新たな人脈を作ったり、新たな発想のもとになったり、従業員が成長できるだけでなく、BCP対策につながる可能性も秘めています。企業が自然災害やテロ攻撃などの緊急事態に遭遇した際に、連携強化した地域を代替拠点に活用できる可能性があります。

一方でデメリットも!導入前に知っておきたい、ワーケーションの課題と解決策

ワーケーションのメリットを多数紹介してきましたが、メリットがあればデメリットもあるものです。これからの課題と解決策を解説します。

状況把握しづらいため、従業員の管理や労災などの制度運用が難しい

ワーケーションでは、仕事とプライベートの時間の線引きが曖昧なため、従業員の勤怠管理が難しいといえます。対面で勤務状況を確認できないので、勤務時間中にも関わらずサボる従業員が出てくることも考えられます。

解決策として、勤怠管理アプリを利用して勤務時間を可視化したり、資料提出などの遂行を持って労働とみなしたりして、社内で事前に働き方のルールを作り、明確にしておくと良いでしょう。

また、ワーケーション中は労災の扱いも考慮が必要です。勤務中ではなく、移動中やプライベートの時間に事故が発生した場合、休暇中だから労災対象外という安易な判断をすると、労災隠しと捉えられることもあり、注意が必要です。

解決策として、ワーケーション中であっても、「勤務中」かつ「業務に関係する事故・怪我」の場合のみ労災対象にするなど、社内規則で何を労災認定するかを決めておくとよいでしょう。従業員に業務活動内容を申請してもらい、承認している業務活動中に発生した分は労災認定するという方法もあります。

いずれにせよ、ワーケーション中は状況把握が難しいので、通常の勤務時に比べて労災認定がされにくいというリスクを従業員に説明しておく必要があります。

端末や情報の持ち出しを前提とした、より強固なセキュリティ対策が求められる

ワーケーションでは、公共Wi-Fiの使用による不正アクセスや情報漏洩のリスクがあります。さらに、従業員が滞在先や移動中に端末を紛失したり、盗難されたりするリスクもあります。

解決策として、ポケットWi-Fiの貸出しやVPNの整備、MAMの導入などが考えられます。VPNは公衆回線を使用した企業の通信網のことで、国内外の問わず専用線のように利用できます。MAMは端末のアプリ管理システムのことで、社員が使うデバイスの設定を企業側で管理し、利用する機能に制限をかけられます。

物理的には万全の対策をしていても、従業員のセキュリティ意識が低いと万が一のことが起こり得ます。従業員には十分に情報セキュリティ教育を行い、セキュリティ意識の向上とリスク回避方法を徹底させておくことが重要です。

ワーケーション環境整備のための導入コストがかかる

ワーケーションの導入と運用には、パソコンなどの端末の支給や、オンライン会議ツールやチャットツールといったソフトウェアの整備、通信費などの費用もあります。また、滞在先までの交通費や宿泊費は企業か社員どちらが負担するかという課題もあります。

費用負担に関しては、実際に導入している企業を見ても様々なパターンがあります。上限を決めて費用の一部を企業が負担するパターンやワーケーション手当として一律料金を支給するパターンなど、企業によって取り決めが異なります。

解決策として、従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも、費用はどこまで会社が負担するのか、明確なルールを定めておくことが不可欠です。宿泊費は会社が指定した宿泊先に限って補助するなど条件付きで費用を負担する方法や、勤務中のワークスペースの利用料金や通信費のみ負担するという方法もあります。

指定された温泉地や国立公園でワーケーションを企画する場合、実施企業に対して環境省から補助金の提供があったり、独自の補助金を提供している自治体もあったりするので、そのような地域を対象地に選ぶのもおすすめです。

費用面において大切なのは、かけた費用に見合った効果が得られるかどうかです。ワーケーションは新しい働き方であり、企業にとっても初めてのことなので、後から改善すべき点が出てきて当然です。定期的に効果測定を行い、必要であれば柔軟にルールを変えていく必要があるでしょう。

ワーケーションをうまく取り入れるには?参考にしたい、企業の成功事例2選

ワーケーションの導入に成功している企業を2つ紹介します。導入の背景やルール、成果などを具体的にまとめました。

1.日本の大企業で初めてワーケーションを導入し、有休取得率の向上を実現【日本航空株式会社(JAL)】

2017年、日本航空株式会社(JAL)は、日本の大企業で初めてワーケーションを導入し、話題になりました。以前から社員の有給取得率がアンバランスであることや年間の総労働時間を減らすことが課題で、働き方改革に取り組んでいた中、ワーケーションを制度化しました。

あくまでも休暇目的の位置付けで、福利厚生型のスタイルを取っています。移動費や宿泊費などは全て社員負担としており、労務管理においては、勤務時は通常のテレワークとしてカウント、業務の時間より休暇の時間を多くするという工夫をしています。ルールとして決めているのは、始終業時間の上司への報告や、勤怠管理システムへの登録、業務の進歩状況をしっかりと共有することです。

導入時の2017年度は社員から懸念の声も多く、ワーケーションの取得者はごく少数でしたが、社内報に掲載して社員への理解を促したり、役員を対象にしたワーケーションを行ったりして、次第に浸透させていきました。2020年度はワーケーションを利用できる社員の2割以上である延べ 400人以上が取得し、結果的に有給取得率のアップにつながりました。取得した社員からは、「家族との時間が増えて働き方を見直す良い機会になった」、「地域の方とのふれあいが新たな活力になった」というポジティブな声が多く出ています。

2.「三好キャンプ」で、オフィスでは気づきにくい考え方を学ぶ【株式会社野村総合研究所(NRI)】

株式会社野村総合研究所(NRI)は、年に3回、希望者を募って1ヶ月間の中期滞在型キャンプを実施するという独自のワーケーションを行っています。2017年から実施されており、徳島県三好市の古民家をリノベーションしたレンタルオフィスに滞在し、平日は通常業務、週末は休暇を取る仕組みの仕事型ワーケーションで、通称「三好キャンプ」と呼ばれています。

徳島県は、全国に先駆けてインターネットのブロードバンド通信網を整備済みで、日本屈指の通信環境が整った地域です。サテライトオフィスの開設企業数も多いことでも有名で、その中でも三好市は観光資源も複数存在する地域なので、ワーケーションに適していると判断されました。

キャンプでは普段とは違った交流が図れるよう、他の部署のメンバーとグループを構成し、数人単位で実施。平日は8:00~17:00が仕事、17:00~は皆で買い出しに行ってご飯を作ったり外飲みしたりとアフターファイブを楽しみます。土日にはBBQやラフティング、地元の祭りに参加して地域の人たちとの交流を楽しみます。

都会から離れた静かな環境で集中して仕事ができるので、オフィスでは気づきにくい考え方を発見できたり、生産性の向上につながったりと参加者にも評判です。

このように、ワーケーションは企業にとっては離職率の低下や優秀な人材の確保、BCP対策にも役立ちます。いっぽう、従業員にとっては違う環境でリフレッシュしたり集中力を高めたりすることができ、企画次第では地域住民との交流を通じて新たな仕事への活力にも繋がります。

仕事にメリハリをつけて生産性の向上を図ろう

テレワークが浸透し国や自治体が推進していることもあり、今後、ワーケーションを取り入れていく企業は増加すると予想されます。

ワーケーションの導入には従業員の管理やセキュリティ対策、コスト面などにおいて課題はありますが、ルールの作成や新システムの導入など、対策によっては解決できる課題も多くあります。ワーケーションのメリット、デメリット、様々な要素を十分に検討した上で導入を決めてください。